質問:
国会の仕組みについて教えてください。
答え:
国会は三権分立の仕組みの中で「立法」を担当している組織です。
「立法」という言葉の通り、国会は主に法律をつくったり、予算を決めたりしています。
国会は「衆議院」と「参議院」という2つの「院(グループ)」に分けることができ、それぞれ少し役割が違います。
衆議院の議員も参議院の議員も「全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と日本国憲法で決められているので、選挙で選ばれます。
2018年10月現在、国会議員(衆議院と参議院の議員)は合計707人いるので、具体的にはこの人達が国会を動かしているんですね。政治家の中の政治家です。
国会は選挙で選ばれた人(国会議員)だけで構成されているので、行政機関や裁判所と比べて特別な機関と言えるでしょう。
国会は憲法によって「国権の最高機関」と定められており、三権分立の仕組みの中で国会は日本の政治の中心的役割を担っていると言えます。
国会の仕組み/国会のポジション
なぜ「院」が2つもあるのか
国会には2つの「院」があることはすでに書いた通りですよね?
具体的には「衆議院」と「参議院」です。
それぞれちょっと違いがあって、その違いについては下の方で解説していますが、そもそもどうして「国会」の中に2つの「院」あるのでしょうか。
1つじゃダメだったのか。
ちょっと不思議に思いませんか?
なぜわざわざ国会を二つのグループに区切って、運営しているのか。
その理由は「ものごとは慎重に決めたい」という考えがあるからです。
なぜ1つではなく、2つの「院」を作るのか主に4つほどメリットがあると言われています。
- 国会の専制政治を防ぐ
- 政府と国会の衝突を緩和する
- 軽率な決定や間違いを避ける
- 民意の幅広い反映
それぞれ解説します。
まず「国会の専制政治を防ぐ」について。
専制とは「特定の人や人びとが物事を勝手に決めてしまい、誰もそれを止められない状態が非常に長い間続くこと」です。
つまり「国会の専制政治を防ぐ」とは「国会」が好き勝手に物事を決められないようブレーキをかける、ということです。
たとえば「あまり働いてないけど給料だけはたくさん欲しいなあ」と思ったとしましょう。
もし国会が1つの「院」しかなくて、しかも過半数の議員が賛成だったとしましょう。
国会議員の「給料(歳費と言います)」は法律で決めているので、もし過半数の国会議員が「給料もっと欲しい」と思ったら、好き勝手決めることができてしまいます。
「仕事をする気が無いのに給料だけは欲しい」なんてこと、国民はもちろん納得できませんが、「国会議員の歳費は法律で決めますよ」と日本国憲法に書いてありますし、法律は過半数の国会議員が賛成すればそれで決まり」とも書いてあるので、誰も文句が言えなくなってしまいます。
まさに「専制」ということです。
これを防ぐために「院」を二つに分けて、なんとか専制を防ごうとしているのです。
もちろん院を二つに分けるだけで防げるわけではありませんが、「ものごとは慎重に決めたい」という考えから出てきたアイディアです。
国会の専制政治を防ぐために、1つではなく2つのグループに分けて運用しています。
次に「政府と国会の衝突を緩和する」です。
政府と国会は、三権分立の仕組みの中で、政府は「行政」を国会は「立法」を担当しています。
2つの機関の意見が合わなくなったとしたらどうでしょう。
日本政治の仕組みの中で、内閣と国会は「議院内閣制」の中で運用されています。
つまり、政府(内閣)と国会はお互いに影響を及ぼすことができるのです。
政府と国会が衝突するということは、要するに意見の食い違いによる「喧嘩」なので、どうにか相手を自分の言いなりにしようと考えます。
国会には「内閣不信任決議」という切り札があるので、これを使って気に入らない政府(内閣)をぶっ潰すことができます。
逆に政府には「衆議院の解散権」があるので、気に入らない国会(衆議院)にダメージを与えることができます。
解散は衆議院のみで、参議院には及ばないので影響は小さいような気もします。
しかし、後で述べるように「衆議院の優越」という考えがあるので、衆議院を解散して選挙をやり、その結果として政府の言うことを聞いてくれる人がたくさん当選すると、政府は思い通りの法律をつくることができます。
したがって、政府と国会の衝突が激化すると、お互いがお互いの足を引っ張る攻撃を続けることとなり、国民は置いてきぼりになってしまいます。
政府と国会が衝突している状態だと、法律を作ることが難しいので何も決まらず、何か問題が起こっても対処できなくなってしまいます。
そこで2つの院を用意しておくことで、仮に衆議院と政府が衝突しても「参議院(参議院の議員さんたち)」が喧嘩の仲裁をしてくれるんじゃないか、という期待が込めて2つの院があるのです。
続けて「軽率な決定や間違いを避ける」です。
これは文字通り、その時の感情や軽率な決定、ノリや勢い、重大な間違い、ミスなどによって法律が決まらないようにする、という意味です。
国会がもし1つの院だったとすると、そこで過半数の国会議員が賛成すれば法律は成立します。
しかし、それが誤りだった場合取り返しがつかないことになります。
なのであえて面倒ですが国会を2つに分け、2つの議院でそれぞれ話し合って、どちらも「GOサイン」を出したときだけ法律になるようになっているのです。
これもやはり、ものごとは慎重に決めたいという考え方が現れた仕組みです。
最後に「民意の幅広い反映」についてです。
下で述べるように、衆議院と参議院はただ単に2つのグループに分けているわけではありません。
衆議院には解散があるけど、参議院には解散が無い。
衆議院の任期は4年だけど、参議院の任期は6年。
衆議院議員になるには満25歳以上でなければいけないけど、参議院議院になるには満30歳以上でなければいけない。
そして、それぞれ選挙の仕組みも違います。
このように運用や選びかたを変えることで、幅広く国民の中から意見を集めようとしています。
これもまた「ものごとは慎重に決めたい」という考え方につながる、大切な仕組みです。
衆議院と参議院の違い
衆議院と参議院の違いが、図になってたので引用。
- 議員定数
- 任期と解散
- 被選挙権
- 選挙制度
- 衆議院の優越
このあたりに違いがありますね。
衆議院の優越
衆議院と参議院の違いについて、よく言われるのが「衆議院の優越」です。
具体的には以下のことが「(参議院よりも参議院のほうが)優越する事項」とされています。
- 法律案の議決権
- 予算の先議権
- 予算の議決権
- 内閣総理大臣の指名
- 条約の承認の議決
- 内閣不信任の決議権
確かにこれだけ衆議院が優遇されてると、参議院が脇役に見えてくるかもしれませんね。
衆議院は上の項目で書いた通り、「任期」が参議院より短く、しかも「解散」があります。
したがってより国民の「今の」意見が反映されていると考えられているので、「衆議院の優越」という決まりがあるのです。
参議院の拒否権
さて「衆議院の優越」がよく語られる中で、意外と知られていないのが「参議院の拒否権」です。
これは「衆議院の優越」の陰に隠れてしまいがちなのですが、日本の政治を考えるうえで見逃せない事実です。
政治の動きを観るときに、誰が「拒否権」を持っているのかを見ると、誰が一番「強い」のかが分かることがあります。
それと同じで「参議院」の拒否権に泣かされてきた総理大臣が過去たくさんいます。
参議院の拒否権という観点から日本の政治を見るのも面白いです。
具体的に「参議院の拒否権」は次のようなシチュエーションで使われます。
- 予算関連法案を否決する
- 国会同意人事を否決する
たとえば「予算関連法案を否決する」です。
予算の先議権、予算の議決権は衆議院が優越するので、通ります。
つまり、政府が作った予算案は参議院で否決され、さらに両院協議会でも意見が一致しなかった場合、衆議院の議決が優先されます。
つまり、政府としては衆議院が味方してくれれば、予算が無事成立するので政府が考えた通り、国のお金を使えるんですね。
ただ、予算というのは「お金の使い道」が書かれているだけです。
問題はどこからお金を持ってくるのか、ということ。
それを決めるのが「予算関連法案」です。
具体的には「赤字国債」ですね。
お金が足りないときは国債を発行して、国民に借金をすることでお金を集めます。
しかし、この赤字国債を発行するためには法律を作らないといけない。
これは予算ではないのでタダの法律です。
したがって衆議院の優越は適用されず、参議院が拒否したら赤字国債が発行できないんですね。
赤字国債が発行できないと、お金が足りないので予算案の通り、お金を使えません。
つまり、事実上「予算」が潰されてしまうんです。
これが参議院の拒否権。
参議院が思い通りの予算を作ることはできないけど、このように拒否権を使うことで「邪魔」をすることはできます。
過去の例だと、2011年に当時の菅直人首相が特例公債法案(赤字国債発行)を何とか通すために、自分が総理大臣をやめることを条件に、野党に法案成立を求めました。
結果、特例公債法案は成立しましたが、菅総理は辞任することとなり、総理大臣がが野田佳彦氏に後退しました。
このように、参議院が拒否権を使うと、総理大臣を追い詰めることができ、最悪クビが飛ぶんですね。
参議院は脇役のようで、ぜんぜん脇役ではありません。
明確に憲法に書かれている「衆議院の優越」と違って、「これとこれとこれは参議院が拒否できるよ」とは書かれていません。
しかし、憲法に定められた法律のつくり方を見ると、参議院が拒否できることが浮かび上がってきます。
まとめ
- 国会は衆議院と参議院から成り立っている。
- 国会が2つの「院」に分かれて活動しているのは「慎重に決めたい」から。
- 衆議院には「衆議院の優越」がある。
- 参議院には「拒否権」が使える。
コラム/国会議員になるなら「衆議院議員」?「参議院議員」?
総理になるなら「衆議院」
どうせ国会議員になるなら「総理大臣」に一度はなってみたいですよね。
内閣総理大臣は「国会議員」であればいいので、衆議院議員でも参議院議員でもどちらでも問題はありません。
ところが、日本の歴代の総理大臣は全員「衆議院議員」です。
一度も「参議院議員」が総理大臣だったことはないんですね。
不思議ですね。
これは、上で話した「衆議院の優越」の中にある「内閣総理大臣の指名」が関係しています。
ねじれ国会と言って、衆議院と参議院で多数派の政党が異なることがあります。
このねじれ国会の状態で内閣総理大臣の指名を行ったとすると、必ずこのような現象が起きます。
- 衆議院=Aさん(A党党首)を内閣総理大臣に指名
- 参議院=Bさん(B党党首)を内閣総理大臣に指名
つまり、それぞれの議院で内閣総理大臣候補が異なる場合ですね。
憲法の決まりに従って処理をすると、このような場合両院協議会を開き、もう一度話し合います。
しかしここでもAさんか、Bさんかまとまらなかった場合は、最終的に「衆議院」の議決が「国会」の議決として扱われます。
つまり、この場合だとAさんが総理大臣になるってことですね。
なので、やっぱり総理大臣は「衆議院議員」であることが基本なのです。
普通なら「衆議院議員」は衆議院議員のなかから内閣総理大臣を指名しますからね。
もちろん、衆議院議員が「参議院議員」のなかから内閣総理大臣を指名しても、憲法違反にはなりません。
法律的には問題ないでしょう。
しかし、衆議院議員には「解散」があります。
このような立場からすると「解散」がない参議院議員の総理大臣を選ぶということは、少し不公平な気がするでしょう。
例えば、総理大臣と国会が喧嘩になった場合、総理大臣は「解散」で対抗します。
このとき、総理大臣が「衆議院議員」の場合はその瞬間に失職します。
つまり、解散すればムカつくやつみんなクビに出来るけど、自分も国会議員ではなくなる、ということですね。
衆議院議員としては、ある日突然無職になるわけですからたまったもんじゃありませんが、それを決めた本人(総理大臣)も無職になるわけで、お互い選挙で堂々戦おうじゃないかということにも受け取れます。
要は「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」ってことですね。
多少は慰めになるでしょう。
ところが、解散を決めた総理大臣が「参議院議員」だった場合は、自分は失職しません。
選挙の結果によっては総理大臣ではなくなってしまいますが、国会議員ではあり続けます。
参議院議員ですからね。任期がまだ残っていれば、それまで国会議員です。
ちょっとズルいですよね。
そういう点から衆議院において、内閣総理大臣を指名するとき「参議院議員」が選ばれにくいのです。
ですから、もし総理大臣を目指すなら「衆議院議員」に立候補したほうがいいです。
重要な人物は「参議院」にいる
じゃあ「参議院議員」は地味で、つまらないかというとそうではありません。
記事の中で書いたように「拒否権」というものが使えますからね。
総理大臣にはなれませんが、総理大臣のすること、政府が思い描く政策、これらをすべて潰すことはできます。
総理大臣を追い詰めて、辞職させることもできます。
ちょっと嫌なヤツかもしれませんが、狡猾で食えないです。
こういった「狸」のような、黒子のような、参謀タイプが好きという人は、ぜひ参議院議員に立候補してください。
ちなみに、与党や野党第一党に比べて比較的規模が小さい政党の党首や重要な議員は、参議院議員であることが多いです。
例えば、2018年10月現在、自民党と連立を組んでいる公明党の山口那津男党首は参議院議員です。
また共産党の志位和夫委員長も参議院議員。
そして共産党の顔とも言える中央委員会書記局長の小池晃議員も、参議院議員です。
日本維新の会の片山虎之助共同代表も参議院議員。
自由党の山本太郎共同代表も参議院議員ですよね。
社民党は特にその傾向が強いです。
現代表の又市征治議員は参議院議員ですし、1つ前の代表だった吉田忠智氏も参議院議員でした。
また、代表だった頃も代表を退いた今も社民党の顔であり続ける、福島瑞穂議員も参議院議員です。
参議院議員が「党首」ということは「総理大臣になる気が無い(政権を取る気が無い)」とも言えますが、逆に考えると「参議院で大いに暴れてやるぞ」とも受け取れます。
参議院は拒否権が使えますからね。
しかも任期は6年。解散の心配なく、暴れられます。良い意味で。
仮に、衆議院が解散された場合は、参議院議員として応援演説をしたり、自分の党の衆議院議員の選挙を手伝ったりします。
参議院議員は、解散の無い「安全なエリア」にいるとも言えますが、絶対に党に欠かせない人物だけが参議院にいけるイメージもあります。
なので、「暗躍」という言葉が好きな人、「闇将軍」とか「キングメーカー」になってキャスティングボートを握りたいという人は、参議院がおすすめですね。