【イメージしてみよう】
あなたは会社員です。
時刻は16時50分。さあ定時(帰る時間)の17時まであと少しです。
デスクを片づけ終えたあなたは、終業チャイムが鳴るのを待っています。
アフターファイブは高校時代の友達と飲み会の予定です。
急いで居酒屋へ向かわねばっ!
そこへ上司がやってきて言いました。
「今日は残業してくれ」
「えーっ!!!」
これってあり(合法)? なし(違法)?
【問いと答え】
問い:
労働者は会社(上司)の命令に従う義務があるのか。
答え:
ある。(ただし、違法・不当な命令は拒否できる)
【解説】
会社員(労働者)である限り、上司(会社)の命令には従う義務があります。
したがって「残業して」という上司の命令は合法です。
例題では、せっかく帰る準備をしたところではありましたが、残念ながら「あなた」が会社員である限り命令には従う義務があります。今日は残業せざるを得ません。
高校の友達には「遅れる」あるいは「ごめん、行けなくなった……」
と連絡しましょう。
では、なぜ会社の命令には従わなければならないのでしょうか。
それは、従業員(労働者)に好き勝手な動きをされると、職場における秩序が保てなくなってしまうからです。
社員が勝手に帰ったら仕事になりませんよね?
お金儲け出来なくなっちゃいますよね?
だから、従業員は上司(会社)の命令に従う義務があるのです。
当たり前の話ですが、企業はビジネスをしている組織です。
組織が組織であるためには、統一された動きが必要になります。
「右向け右」と言われて、一斉に右を向けるからこそ企業は利益を生み出します。
経営者の判断によってヒト・モノ・カネ・情報を集め、投入し、ビジネスの活動をおこなっているのです。
この動きは上(経営者)から下(ひら社員)まで「ビシッ」と動けることが前提です。したがって、個人の勝手な行動は許されません。
事例のとおり、たとえ個人的には納得できない命令だとしても、雇用契約に基づいてそこで働いている限り、会社の命令には従う義務があります。
ヒントとなる判例
「企業は(中略)事業の円滑な運営を図るため、具体的に指示、命令することができ」る。
違法・不当な業務命令の場合
ただし!
上司(会社)の命令に従わなくてもいい場合があります。
それが「違法」な場合や「不当」な場合です。
原則としては、上で述べた通り会社の命令には従う義務があります。
しかし、命令の内容が違法なもの・不当なものである場合には、労働者は拒否できるとされています。
いくら「会社の秩序を維持するため」だったり、「ビジネスのため」とは言え、法律に反するようなことは命令できません。当然、企業の言い分よりも法律のほうが優先します。
実際に会社の命令が違法・不当とされた判例
その1
不注意で乗用車との接触事故を起こしてしまったバスの運転手に対し、バス会社が炎天下の中で「草むしり」を命じた。
↓
「草むしり」をさせることが「安全運転」につながるとは考えにくい。
これは、バスの安全な運行という目的から大きく逸脱している。
また、いやがらせの意味合いが強い。裁量権を超えているだろう。
これは違法である。
(神奈川中央交通事件 横浜地裁 H11.9.21 から要約)
その2
電車運転士が労働組合のマークが入ったベルトを外さなかったので、鉄道会社は就業規則の全文書き写しを命じた。
↓
労働者の人格権を侵害する。
教育訓練に関する裁量を超えているため違法である。
(JR東日本本荘保線区事件 最高裁二小 H8.2.23 から要約)
まとめ
会社の命令には従う義務がある。
ただし、違法・不当なら拒否してもよい。
しかし違法・不当の判断基準はケースバイケースで判断されている。
最初から「これは合法」、「これは違法」と線引きがあるわけではない。
ゆえに、基本的には従う必要がありつつも、「本当に業務命令の内容に従うべきか」は労働者自身も判断する必要がある。
自分の身を守るために、普段から「これっておかしくねえか?」と感じられるような「疑い」を持っていよう。